福祉コラム

「三」の役割
「ジャンケンポン」は、江戸の庶民によって発明されたと言われる。グー、チョキ、パーの三すくみ、つまり、AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つ、という法則を用いて勝負を決める。日本人なら誰もが知っている遊戯である。グーとパーだけでは勝負にならない。チョキという第三の手が加わることで、シンプルながら奥深い遊びになる。春を待ちわびながら、「三」という数字が果たす役割を取り上げて、日本の伝統的考えに思いを巡らせてみた。
「三人寄れば文殊の知恵」とは、三人集まって相談する方が、一人二人よりも良い知恵やアイデアが浮かぶ、という慣用句である。物事が一度や二度ではあてにならないが、三度目なら確実という時の「三度目の正直」や、「二度あることは三度ある」のように、同じ失敗を繰り返さないように戒めることわざもある。
日本の華道にも「真」「副」「控」という三つの基本的な役割を草花に与えることで、美を追求する流派がある。大輪の花などを「真」として中心に置き、草木や小花を「副」「控」としてあしらうことでバランスをとる。一見ばらばらのように見える生け花が、見事な調和を見せるための基本である。これは家族、組織、集団の均衡を保つ場合にも当てはまる。父親、社長、組合長といった中心的な人物の周りで、副え役や控え役が補佐をする。こうして調和をとりながら見事なチームワークが構築されるのである。
ジャンケンのチョキに相当する控え役は、第三の人物ともいえよう。一対一のにらみ合いが生じた場合、公平無私な態度で判断し、過半数を取ることで問題を解決する。チョキは重要な役を担っているのである。男女の「三角関係」は、ネガティブな状況というのが一般論である。だが、複雑で割り切れない状況でも、それを突破口として新たな人生を切り開くチャンスにさえなる、と考えれば、「三角」の苦境も悪くない。
ちょっぴり肩の凝る政治の世界にも「三」が厳然と存在する。行政権のある内閣府、立法権のある議会、そして司法を司る裁判所の「三権分立」である。国の仕事を分担するための基本中の基本が守られてこそ、政治の均衡が保てるのである。今、世界のどこを見回しても見つからない「国民の幸せ」はこのバランスにかかっている。
芸術の分野にもある。「三分割法」といわれる法則である、絵画、写真、デザインなど、視覚に訴えるアートで構図の決定に用いられる。水平線と垂直線を2本ずつ等間隔に引いて、全体を9等分し、それらの線上に重要な要素を配置することで、バランスのとれた構図が得られる。
武術やヨガの世界でも、心技体の「三」要素が訓練の基本をなしている。東洋思想では、メンタル、技術、体力は相互に関連し合っていると考え、この三つを一つのものとして鍛錬していくのである。ことほどさように「三」の果たす役割は大きい。目立たないけれど重要なチョキという脇役でも甘んじて引き受けようではないか。中国の古典に「善行を積んだ家には善き報いがある」という言葉もある。(T)