福祉コラム

天高く馬肥ゆる秋。秋といえば何といってもサンマ。ということで今月は「目黒のサンマ」というお笑いにお付き合い願いましょう。
時は天下泰平の江戸。家来を引き連れて鷹狩りに出かけた殿様。昼食をとろうとしたら弁当の用意がないことを知ります。「食事を用意してこないとは何事か!」と殿様が怒れば、家来が腹を切らねばならないのが封建の世の習わしです。ぐっと我慢をするところは、家来想いの心優しい殿様です。ちょうどその時、農家で焼くサンマの匂いがプーンと漂ってきます。「あれは何の匂いか。」というご下問に、家来は「恐れながらサンマと申す下魚にございます。」 空腹で耐えられない殿様です。「しからばそれを求めて参れ。」と命じます。
魚と言えば高級な鯛しか食したことのない殿様。「サンマのような下魚を召し上がっていただいたと知れたら、大変なことになります。何卒ご内密に」といいつつ、命令に従って、焼きたてのサンマを農家から譲り受けて殿様の御前に。炭火で焼いただけの素朴な料理とはいえ、脂ののった旬のサンマです(こう書きながら唾をゴクリと飲み込む筆者)。手の込んだ料理しか知らない殿様にとって、それはそれは美味しい初体験でした。
お城に戻った殿様、目黒で食したサンマの味が忘れられません。そこで「サンマを所望」と命じます。これには料理人が困り果ててしまいました。サンマを焼くとたっぷりの脂が出ます。それでは体に悪いと、脂をすっかり抜き、骨がのどに刺さるといけないと、骨を一本一本抜きます。結果はご想像通り、見るも哀れなグチャグチャの姿になり果てました。「こんな形でお出しするのは、料理人の沽券に関わる」と、お椀に入れて蒸してお出だしします。
あの目黒のサンマの味を知ってしまった殿様にとっては、不味くてどうにもならない代物です。「これこのサンマ、いずかたにて仕入れたか?」という殿様の問いに「日本橋魚河岸にてございます。」と家来の返事。殿様は「ああ、だからいかん。サンマは目黒に限る!」。と訳知り顔です。
江戸時代、目黒は内陸部の鷹狩などに適した行楽地でした。魚河岸も知らない世間知らずの殿様を皮肉ったお笑いを一席。お後がよろしいようで。。。