福祉コラム

本当の優しさ
「ヒナギクは、草の中に埋もれている自分に誰も目
を止めることがないことも、自分が貧弱でとるに足
らない花だ、ということも少しも気にしませんでし
た。それどころか、心から満足して、まっすぐにお
日様を見上げながら、空でさえずっているヒバリの
歌に、うっとり聞きほれていました。」これは、ア
ンデルセンの童話「ヒナギク」の一説です。ヒナギ
クを通して、何もできない自分,欠けているところ
のある自分を認め、満足することが人を優しくする、
という教えが隠されています。
「肉をくわえたイヌが、川に映った自分の姿を見て、
別のイヌが肉をくわえていると思い、肉を取ろうと
して吠えた途端、くわえていた肉を落としてしまい
ました。」これはイソップ物語の一つです。欲にか
られて他人の物を欲しがる結果、不満がたまり、結
局、自分の持っているものまで失う不幸な生き方を
戒めています。「これさえあれば他に何もいらな
い。」という確固たる満足感を持ち、運命を受け入
れ、他者と競うこともなくなり、人は優しくなれる
のでしょう。
「私は、偉大なことはできませんが、小さなことの
一つ一つに大きな愛を込めることならできます。し
ていることは、一滴の水のように小さなことでしょ
うが、この一滴は、大海にもなりうるのです。」ノ
ーベル賞受賞のときのマザー・テレサの言葉です。
「私は心の中で、死にゆく人の最後のまなざしをし
っかりと心に刻み込んでいます。社会から、家族か
ら役に立たない無駄な存在として捨てられた人たち
が、死の瞬間に、誰かに愛された、と感じてこの世
を去ってもらうために。」彼女がインドに設立した、
「死を待つ人の家」での活動について述べています。
炊き出しをするヘルパーたちに、次の3つを実行す
るように指導しました。第一は、食べ物を手渡すと
きは、相手の目を見てほほ笑むこと。二番目は、手
に触れて、ぬくもりを伝えること。最後は、短い言
葉をかけること。崇高な優しさが滲み出ています。
次は相田みつをの「優しさ」の定義です。
「仏様の教えとは何ですか?
郵便屋さんが困らないようにね、手紙の宛名をわか
りやすく、正確に描くことだよ。
なんだ、そんな当たり前のことですか。
そうだよ。その当たり前のことを 心を込めて実行
してゆくことだよ。」
最近の風潮として、こうした当たり前のことを、心
を込めて実行する思いやりが忘れ去られてしまった
ようで心配です。
ねむの木学園創設者、宮城まりこさんも「やさしく
ね。やさしくね。優しいことは強いことよ。」と、
優しさを強調する名言を残しています。
勇気もなく、面倒くさがりの我々、凡人が弱者に手
を差し伸べるようになるためには、優しさと強さを
伝える言葉を心の中で繰り返す努力を心がけること
なのでしょう。忙しさにかまけている内に、人はぬ
くもりや優しさを失いがちです。そうした自分に気
づくことが第一歩かもしれません。よりよく、そし
て悔いのない人生を送るために。(T)