2/24「日本と英国にまたがる国際相続」のセミナーのまとめ

「日本と英国にまたがる国際相続~資産と相続人について 」のセミナーについて

2021年2月24日(水曜日)11時から英国日本人会のナルク部では先のセミナーをオンラインで行いましたので、報告させていただきます。

当日は80名を超える方々に参加いただき、事前にいただいた質問や当日も多くの質問をいただくなど、参加者の皆さんに活発に参加いただきました。

当日の内容は、私は専門家ではありませんので技術的なことはできるだけ避けて、どのようなことについてお話をいただいたかについて下記で触れさせていただきます。

今回のセミナーでは、日本と英国にまたがる国際相続ということからも、イングランド及びウェールズ法に基づいたお話をコグニティブ法律事務所のリチャード・ベイツ弁護士とホークス真弓弁護士に、そして、日本法に基づいたお話を渥美坂井法律事務所・外国法共同事業のロンドンオフィス代表の金久直樹弁護士にしていただきました。

リチャード・ベイツ弁護士とホークス真弓弁護士には昨年2月に「人生後期に考えておくべき法的手続き」のセミナーをしていただきましたが、今回はポイントを日英にまたがる国際相続にしぼりながらも、前回お話しいただいた重要な点も抑えながらお話をいただきました。

まず英国内には司法管轄が複数あり、①イングランド及びウェールズ法(以降イングランド法)、②スコットランド法、③北アイルランド法と別れていますが、このセミナーではイングランド法に関する相続に限ってでの説明であるという前提で、下記の項目についてお話しいただきました。

  • Conflict of Laws & at Common Law
  • Grant and Assets in English Law
  • Immovables and jurisdiction
  • Concept of Domicile
  • No will or insufficient will
  • Inheritance Tax (IHT)
  • Best Practice

国際相続時においてそれぞれの司法管轄地の私法間の差異(Conflict of laws)が明るみなった場合、それぞれの法律間で厳密な取り決めが決まってないので司法管轄間の調整の手間やコストがかかる可能性があるため、相続問題に関しては司法管轄の別をわきまえた上でご自身があらかじめおできになることを再検討されることが肝要であると指摘がありました。

その上で、イングランド法における資産の概念とGrantの効力とPersonal Representatives(PR)の権限の説明をいただきました。

そして、Domicileの概念について説明をいただき、何を以てUK内にDomicileがある(日本語的な考えでは「定住地」の考え方に近いと考えます)と考えるのかという問題が、国際相続においても英国での相続税(IHT)の観点でも重要であるとお話しいただきました。

たとえば、夫婦間の贈与においては夫婦が共にUK内のDomicile(UK Domicile)であればIHT課税控除の対象となるが、UK Domicileから非UK Domicile(Non-Domicile)への贈与・相続は控除対象額に制限がある点の指摘がありました。

前回のセミナー同様、英国内にお持ちの資産に対しWill(遺言書)を準備することが賢明であること、また、Willとして有効とみなされるものがなかった場合の危険性を説明した上で、遺言書は英語である必然性はないが、英国で有効なWillと判断されるものを残しておく重要性があると勧告がありました。

また、資産が日本にある場合、日本法において相続の問題が起こらないように日本法専門家のアドバイスを受けたうえで必要な書類を作成するほうが賢明だろうと提言がありました。

英国での相続税(IHT)の基本としては以下の言及もありました。

  • UK Domicileの故人の場合、英国内外の全資産がIHTの対象になること。
  • 相続税の非課税枠は現行32万5000ポンドだが、生前7年間の贈与分もIHT税の課税対象(課税対象額にの税率は現行40%)になること。
  • UK Domicile同士の夫婦やCivil partner間の譲渡・相続は相続税控除になること。
  • 相続税控除の対象のほかの例としてはチャリティー団体への贈与もあるが、英国外のチャリティーへの贈与の場合は、その団体が英国でのチャリティー規定と合致するかだけでなく、正式名称や所在地、登録番号などをきちんと確認したうえでWillにきちんと記載すること。
  • 自宅を直系子孫に贈与した場合のIHT控除額は、現行17万5000ポンド。

最後に重要な点として下記をお話しいただきました。

  • 資産が‘在する司法管轄圏の法律に沿って遺言書に匹敵する書類を準備するべきではあるものの、複数の司法管轄下で遺言書を持つことによって各々の遺言書の内容を無効にすることのないように注意が必要。
  • Domicileの判断と相続税の理解については専門家と相談することが賢明。
  • 英国内での後期ライフプランとしてはLasting powers of attorney(LPAs)の作成も考慮すべき。

次に日本法についてお話しいただいた金久直樹弁護士からは下記のトピックでお話しいただきました。

  • 複雑な国際相続
  • 準拠法の決定
  • 法定相続分と遺留分
  • 遺言
  • 相続税

国際相続は下記のような点から複雑。

  1. 国際私法上の対立

日本が相続統一主義に対しイングランド法では相続分割主義。

  • 相続統一主義:相続財産が不動産か動産かを問わず、相続関係を一体的に、被相続人の本 国法や住所地(domicile)法といったその人に固有な法を適用して、統一的に規律
  • 相続分割主義:相続財産に着目して、不動産と動産の相続を区別し、不動産については不動 産の所在地法を、動産については、被相続人の本国法又は住所地法を適用
  1. 実体法上の対立

日本が包括承継主義に対しイングランド法では管理清算主義

  • 包括承継主義:相続開始の時点で被相続人の財産は積極財産か消極財産かにかかわらず、 すべて相続人や受遺者に帰属するという考え方
  • 管理清算主義:被相続人の財産は、いったんすべて遺産財団(estate)に帰属し、裁判所の 管理下で管理清算手続(probate)を行った上で、プラスの財産が残った場合にはじめて受遺 者又は相続人に相続財産が分配される

準拠法の決定に関しては、次の法が適用される。

  • 通則法36条で「相続は、被相続人の本国法による」
  • 同法38条3項「当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法 (そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。」

ただし、日本法が適用される場合は遺留分に注意。それは、遺言でも排除されない相続人の最低限の相続分があるため。

遺言の作成方法は下記の通りで、やはり日本に所在する財産については日本法方式の遺言を残すべきとのこと。

  • 自筆証書遺言:全文手書き、方式が厳格(ただし近年の法改正で若干緩和)、証人不要 だが裁判所での検認が必要(法務局で保管されている場合は不要)、海外でも作成可、紛 失等のおそれあり
  • 公正証書遺言:公証人が作成(日本での作成が必要)、証人(親族以外)二人の立会 い、原本は公証役場で保管、検認不要、手数料は遺産の金額と相続人の数により異なる

相続税の基本は下記の通り。

  • 土地・建物や預金等の財産から借入金や未払金等の債務を引いた正味の遺産額が基礎控除額 以下の場合は、相続税はかからない

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

  • 生命保険金や死亡退職金は、それぞれ非課税限度額(500万円×法定相続人の数)までは相 続税はかからない
  • 相続税の配偶者控除:被相続人の配偶者が相続した遺産額に対する税額については、法定 相続分もしくは1億6000万円までのいずれか多い金額に対応する額まで税額控除される
  • 相続人が日本国外に居住している場合は、相続により取得した財産のうち日本国内にある財産 だけが相続税の対象になる。ただし、財産取得時に日本国籍を有しており、被相続人の死亡日 前10年以内に日本国内に住所を有していた場合等、一定の場合は、日本国外にある財産につ いても相続税の対象となる

最後にすでにいただいた質問と同日いただいた質問にお答えいただきました。

Q: 英国の遺言に日本にある団体へ寄付する場合気を付けること。

A:  日本の団体の詳細が明確であること、チャリティー団体である場合は、相続税が免除されるチャリティー団体にあてはまるものであるかを確認されること。

Q:  日本にある資産を英国籍の配偶者に相続させるために気を付けること。

A: 日本資産については日本法が適用。そのため、日本の遺言は必要で、できればそれぞれの国で遺言を準備されること。

Q: 日本の動産と不動産を日本在住の家族に相続させる場合。

A: 被相続人が英国のDomicileの場合は日本の動産・不動産であっても英国の相続税の対象。それに対し、Non Domicileの場合は日本の動産と不動産は英国の相続税対象外。英国、もしくは日本でその相続税が支払われている場合は、二か国間で二重課税を回避するため控除が認められる場合があるが、詳細は税理士に確認することが望ましい。

Q: 英国に住む子供が日本の親が亡くなり日本資産の相続がある場合、日本と英国のどちらの法律に沿うのか。

A: 日本国籍を有する親が亡くなった場合は、日本法に従う。

Q: 日本国籍を所持している場合、英国で英国籍の夫の相続に問題があるか。

A: 通常の相続の手続きが必要であること以外は、日本国籍であるための問題はない。

Q: 遺産分割協議書を作成のために日本に入るべきところ、コロナ禍入れない場合の日本政府による考慮はあるのか。

A: 遺産分割協議書の作成自体は日本で行う必要はないが、日本で行う必要がある相続のための諸手続きについて、親族等に頼むことができないようであれば、日本の弁護士や税理士などの専門家を代理人として立てて、手続きを行う。

*¹Domicile of choiceでNon Domicileとしても、Deemed Domicile(英国歳入関税庁によって過去20年内に15年間英国居住者であればDomicileとみなされる等)もあり、詳細は専門家へ確認をする必要がある。

*²2021年4月5日まで

最後になりましたが、先のまとめはWhitehouse佐藤敦子が行い、ホークス真弓弁護士と金久直樹弁護士に内容の確認をしていただいています。また、このセミナーの連絡などは今月のナルク部のコーディネーターのミルロイ美紀さん、そして入室許可は美紀さんと共に山口ゆかりさんにお手伝いをいただきました。

なお、今回セミナーにご協力いただきました弁護士の方々の連絡先は下記のようになります。

 

コグニティブ法律事務所

リチャード・ベイツ弁護士 電話 01273 284012 Email: richard.bates@cognitivelaw.co.uk

ホークス真弓弁護士 電話020 3034 0501 Email: Mayumi.hawkes@cognitivelaw.co.uk

 

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

ロンドン代表金久直樹弁護士 電話 (0)203-696-6540 Email: naoki.kanehisa@aplaw.jp